①秋田大学医学部医学科における6年間一貫教育の特徴

①秋田大学医学部医学科における6年間一貫教育の特徴

医学生の皆さんの効果的な学びを実現するために、入学直後の1年次から卒業時の目標を見据えて学部全体で先進的教育を展開しています。
是非、皆さんが目標とする理想的な医師を目指して、教育熱心な先生が多い本学で私たちといっしょに医学を学びましょう!!

―医学生の皆さんの効果的な学びを実現するために、
入学直後の1年次から卒業時の目標を見据えて学部全体で先進的教育を展開しています―

秋田大学大学院医学系研究科 医学教育学講座 教授 長谷川仁志

はじめに

長谷川 仁志 教授

本学医学部は、1970年開設当初から、教育を重視して臨床と研究を発展させる学部の責務を果たすことを目標として、先進的な体制づくりの上に教育改革が進められてきました。その歴史的な流れを基盤とする現在の医学教育カリキュラムでは、医学生の皆さんが6年間安心して段階的に学べるように、1年次からの各種シミュレーション教育や客観的臨床能力試験(以下OSCE:Objective Structured Clinical Examination )の実施、デジタル教育手法を活用した各講座による効果的な教育展開など、将来予想される医療展開の一歩二歩先を見越した先進的な医学教育を取り入れております1、2)

医学教育の世界規準に沿った学生の皆さんの学びやすさを重視した取りくみを推進し、全国的に高い医師国家試験合格率を維持している3)本学部の医学教育について【1. 本学医学教育の特徴的な取り組み】【2. 6年間一貫教育における各学年の概要】の2つの視点で紹介いたします。

【1. 本学医学教育の特徴的な取り組み】

歴史的な基盤の上に改良が継続されている2015年からの現行のカリキュラムは、入学時から卒業時の目標を意識した6年間一貫カリキュラムのモデルケースとして、全国約50大学以上の医学部の教員・職員の皆さんの見学を受け入れてくることができました。その特徴について以下に示します。

(1)6年間の学びの集大成の卒業試験として、全国最大規模の16ステーション臨床実習後客観的臨床実技試験(Post Clinical ClerkshipClerkship(PCC)-OSCE)を全国に先駆けて実施してきました(2001年~)。この最終目標に向かって全教職員が連携して皆さんの学びをサポートします。

(2)学生の皆さんにとって効果的な学びを提供するために基礎医学、社会医学、臨床医学各分野が卒業時の目標に向かって連携して講義・実習・評価(統一試験)を行う統合教育が実施されています(2003年~)。

(3)早い時期から卒業時の最終目標を意識して学修をすすめることができるように、1年次の7月と12月に医療面接OSCE、心エコー・腹部エコー・肺の聴診OSCEを導入しています(2010年~)4)

1年次医療面接OSCE
図1:1年次医療面接OSCEは、7月(胸痛)と12月(腹痛)に日本語と英語で実施されます。学生はこの日に備えて演習します。
腹部エコー演習
図2:1年次10月11月 腹部エコー演習(シミュレーション教育センター)。12月のOSCEに向けて班ごとに演習します。
心エコーOSCE
図3:1年次12月に行われる心エコーOSCEは、心エコーの基本画像の描出が評価されます。
聴診OSCE
図4:1年次12月に行われる肺の聴診OSCEでは、主な副雑音の判定が評価されます。

(4)東日本最大規模のシミュレーション教育センターを開設して、1年次からの継続的な実践演習、4年生からの各分野臨床実習中の必須症例の経験保証のためにシミュレーション教育を充実しています5)(2012年~)。

診療科 内容
図5:各科臨床実習中にシミュレーション教育で経験保証している診療科と内容

(5)e-ラーニングシステムをウエブクラスに統一して、学部全体でデジタル教育の推進がはじまりました(2016年~)。その後、COVID-19への対応でシミュレーション教育のオンライン化など各分野のデジタル化が進化しましたが、今後、対面とオンラインのバランスよく効果的な学びを提供しています。

オンラインシミュレーション実習
オンラインシミュレーション実習
図6、図7:オンラインによるシミュレーション教育のオープン化
クラス全体への学修などシミュレーション教育の機会が増えることで学修効果を上げることを図っています。

(6)全国的に早い時期から、医学教育センター(2006年~)、医学教育学講座7)(2013年~)、総合臨床教育研修センター8)(2014年~)といった教育に特化した部門が開設され教育体制を充実してきました。さらに、今回、国内初となる先進デジタル医学・医療教育学講座/デジタル医学・医療教育推進センターが開設されました6)(2022年~)。デジタルネーティブ世代である次世代の医学生の皆さんの効果的・効率的な卒前~生涯教育の展開に必須となる学内各分野と県内教育協力医療機関のデジタル教育の充実とネットワークの強化が進められております。

コンセプト
図8:先進デジタル医学・医療教育学講座/デジタル医学医療教育推進センターのコンセプト

【2. 6年間一貫教育における各学年の概要】

(1)1年次:入学直後から卒業時の目標を意識した臨床医学~基礎医学の学修が始まります。

医学生が医学教育の意義を学びさらに卒業時の目標を早い時期から意識することで、無理なく安心して6年間学べるように、1年次の教育を特に重視しています。以下に示す世界基準で推奨される教育展開により、入学直後から将来何科に進んでも大切な卒業時の知識・技術・態度を包括した実践的な能力の最終目標を意識することができます。

1)入学直後に6年間の医学教育の詳細を学ぶとともに、基礎医学・臨床医学・医療行動科学を統合させた重要症候(胸痛・腹痛)ベースの臨床推論・医療面接コミュニケーションスキルの学修・演習が通年で実施されます。

2)東日本最大規模のシミュレーション教育センターを活用し、将来、どの分野でも必須となる心エコー、腹部エコー、肺聴診のシミュレータを活用した実践演習がはじまり、臨床のポイントを把握した上で、2年次の解剖学実習をはじめとする基礎医学学修へとつながります。

3)上記1、2の評価は、7月と12月にOSCEで行われます。この時期にOSCEを経験することで、6年間の医学教育目標をしっかり意識することができます。

4)専門科目である6月からの生理学、生化学の学びの前に必要な知識として医系生物が4~5月に集中講義で実施されます。

5)後期には、臨床の学びを意識した解剖学、組織学・発生学、生理学、生化学などの専門科目の講義・実習がはじまることでモチベーションアップにつながるとともに2年次の負担を軽減しています。

(2)2年次:基礎医学学修

世界基準に沿って、臨床医学を学ぶ上での重要ポイントを意識した各分野基礎医学の講義・実習が数週間単位で分野別に実施されます。1年次に導入されている科目に加えて、微生物学、免疫学、薬理学、病理学について、臨床医学における疾患や病態理解を目指して学びます。並行して社会医学(公衆衛生、倫理、キャリア教育)が実施されます。

いずれも将来どんな分野に進んでも大切な知識・技術・態度を包括した実践的な能力を卒業時に修得することを意識して講義・実習が行われます。解剖学実習をはじめ基礎医学実習の評価では、医学教育の中心であるプロフェッショナリズム(信頼性、思いやり、倫理感など医師としてあるべき資質を包括)を評価する臨床実習の際の評価表を改変したものを用いてこの時期から評価を受けます。

(3)3年次~4年次前期:臨床医学・社会医学学修、研究配属、基本的診療技能

4年次後半からの診療参加型臨床実習にむけて各分野が数週間づつユニット別に統合した臓器別の臨床医学講義が進められるとともに、臨床と関連深い社会医学(公衆衛生、法医学)を学びます。

3年次1学期の火~木曜日の午後は、基礎医学・社会医学各分野の研究室に配属となって各分野の研究について実践的に学び、リサーチマインド・手法を修得します。この期間に学会発表演題抄録や英語論文を完成する部門もあります。

4年次4月~7月の基本的診療技能講義・演習では、各分野が協力して主要症候の臨床推論や身体診察、基本的診療手技の実践演習を最新のシミュレーター等を活用して行います。8月末に行われる公的な試験である共用試験機構によるCBT(Computer Based Testing)とOSCEを受験し、これらに合格することで学生医としての診療参加型臨床実習を開始することができます。

(4)4年次後期~5年次前期:診療参加型臨床実習1(CC1)、学内各診療科

大学各診療科を1~2週間の期間で診療参加型臨床実習を行います。この間、主治医チームの一員として病棟・外来患者さんを受け持つとともに、各種検査や手術などに参加します。各科実習期間内のタイミングによって、どうしても実際の担当患者さんで経験できない重要な診療や手技については、多くの診療科でシミュレーション教育で経験保証します。また、CC2に向けて臨床推論力を高めるために、毎週金曜日の午後は、主要症候ベースのカンファレンスが行われております。5年の前期終了時には、CC1終了後の卒業中間試験(2割相当)として、主要症候の臨床推論など基本的な診療に関する統一試験を実施し、CC2の質向上へとつなげます。

(5)5年次後期~6年次前期:診療参加型臨床実習2(CC1)、学内各診療科・県内医療機関、海外留学

CC2では、CC1の経験を生かして、より本格的な診療参加型臨床実習が行われます。

はじめに、県内の研修病院における3週間の診療参加型臨床実習が実施されます。その後、4~5週間単位で、大学各科、県内医療機関において診療参加型臨床実習が行われます。海外の大学医学部への留学(米国のピッツバーグ大学(2名)、ハーバード大学(2名)、ハワイ大学(1~2名)、フランスのリール大学(3名)、イタリアのカリアリ大学(3名)、中国・華中科技大学(2名)等)も、この時期に実施されます。

(6)6年次後期:卒業統一試験(8割相当)、PCC-OSCE

卒業統一試験(8割相当)後、集大成としてのPCC-OSCEが16ステーションで行われ、卒業の判定となります。現行のカリキュラムでは、無理なく100%近い卒業試験の合格率となっております。

以上、6年間一貫教育における各学年の概要9、10)について述べてきました。集大成としての診療参加型臨床実習や卒業試験について1年次から意識できるカリキュラム構成により、皆さんが安心して学べる教育環境の充実を目指しております。本学では、本学や 国内・外の医育機関で様々な経験を積んできた教育熱心な先生が多く、個々の医学生の成長のために学部全体を上げて対応しています。

是非、皆さんが目標とする理想的な医師を目指して本学で私たちといっしょに医学を学びましょう!!

参考文献

  1. 情報爆発時代におけるこれからの医学教育改革
  2. 理想的なカリキュラム編成を考える
  3. 厚生労働省 令和4年度医師国家試験学校別合格者状況
  4. 2022年12月 初年次OSCE
  5. 秋田大学医学部附属病院シミュレーション教育センターHP
  6. 秋田大学医学部 令和4年度概要 P16 デジタル医学医療教育推進センター
  7. 秋田大学大学院医学教育学講座HP
  8. 秋田大学医学部附属病院 総合臨床教育研修センターHP
  9. 秋田大学医学部シラバス
  10. 秋田大学医学部医学科シラバス 前書き 各学年共通

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