④非侵襲非造影MRI拡散強調画像の臨床応用:予後予測から術中断端診断へ
非侵襲非造影MRI拡散強調画像の臨床応用:予後予測から術中断端診断へ
患者様に安全な非造影MRI検査の普及
MRI 撮像シークエンスの中でも拡散強調画像は癌の発見、診断に有用とされ、様々な領域で臨床応用されている非造影のシークエンスで、数分の撮像時間で水分子の熱運動の状態を画像化し、生体内の水分子、特に細胞外液腔の熱運動を可視化することが可能です。
拡散強調画像からはみかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient; ADC)という係数が拡散の指標として算出され、この係数は理論的には静磁場強度などの装置や撮像法の影響を受けず、物理学的量として定量可能です。我々は拡散強調画像のADC値が乳癌の予後因子(細胞増殖指数、グレード、リンパ脈管侵襲)と関連することを示してきました(Mori et al. Radiology. 2015 Jan;274(1):66-73.)。術前MRIで予後因子を予測できることは、治療方針を決めるために役立ちますし患者様の予後を予測することも可能です。
術中断端診断への応用
乳房温存手術では術中迅速病理診断による断端陽性は、切除により“癌が取り切れていない”ことを意味し、局所再発に繋がります。乳房温存手術において術中迅速病理診断は重要ですが、手術時間延長は患者様への侵襲となりますし、手術にたずさわる外科医、病理医、看護師などコメディカルの負担増にも繋がります。
我々は乳癌術中断端診断のための超高分解能標本MRI拡散強調画像の開発を行っています。術中に患者様から摘出された乳房の標本を容器に入れて撮像するために、図1のような摘出標本用のアクリル製収納容器の開発を試みています。パイロットで生体内のMRI(通常の術前MRI)と生体外のMRI(摘出標本MRI拡散強調画像)を撮像したところ腫瘍が断端(標本の端)まで及んでいるのか否かを可視化することができました(Mori et al. J Surg Oncol. 2023 Mar;127(3):514-516.図2)。
また生体内に比べ生体外では拡散強調画像のADC値が低下することがわかりました。一般的に癌組織では正常組織に比べ血流、細胞密度が高いです。我々は、生体外(摘出標本)では血流遮断、細胞膨化・融解の変化が腫瘍部で正常部より大きいため、結果として細胞外液腔のスペースが減少し、水分子の動きが生体内に比べ制限され、 ADCの低下、拡散強調画像での信号上昇をきたし、周囲正常部とのコントラストが明瞭になるという現象が起きることを予測しています(図3)。
術中標本拡散強調画像は手術室MRI装置への技術移行が進めば、乳癌以外の腫瘍における断端診断やリンパ節転移診断にも応用可能で、手術時間短縮、患者さん、外科医、病理医の負担の軽減につながります。
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