お知らせ

2023年01月05日(木)

胸部外科学講座(現・秋田赤十字病院呼吸器外科) 中 麻衣子 先生が代表著者となる学術論文が国際誌『Lung Cancer』に掲載されました。

論文タイトル

Rapid intraoperative Ki-67 immunohistochemistry for lung cancer using non-contact alternating current electric field mixing.

著者名

Maiko Atari, Kazuhiro Imai, Hiroshi Nanjo, Yuki Wakamatsu, Shinogu Takashima, Nobuyasu Kurihara, Shoji Kuriyama, Haruka Suzuki, Ryo Demura, Yuzu Harata, Yuko Hiroshima, Yusuke Sato, Kyoko Nomura, Yoshihiro Minamiya

掲載誌

Lung Cancer

研究等概要

JCOG0802試験(肺葉切除 vs. 区域切除)において2cm以下の小型肺癌における縮小手術の有用性が証明された。本試験では縮小手術である区域切除群が通常の術式である肺葉切除群よりも優れた生存率を報告する一方で、区域切除群における高い局所再発率が危惧される結果となった。
肺癌はheterogeneityな腫瘍の生物学的特性から再発リスクや治療効果を予測する有用なバイオマーカーが少ない。我々は細胞増殖能マーカーであるKi-67に着目し、画像上では区域切除となり得る早期肺癌の中でも悪性度の高い腫瘍を術中に予測できないかを調査した。
研究①:2012年1月から2020年12月のpStage IA期の当科手術症例374例から再発群と無再発群に分けたのちにマッチングを行い、切除標本・免疫組織化学染色(IHC)で各群のKi-67陽性率を測定した。
結論①:Stage IA期肺癌においてKi-67高値群では高い再発リスク、生存率悪化が示された。
研究②:縮小手術が根治手術たるためには術中に腫瘍悪性度を探索する必要がある。我々が開発した医工連携技術・電界撹拌法はパルス状電界を印加することによって液滴に吸引力が作用、上下方向に振動し、スターラーなどの介在物なしに撹拌反応が進展する革新的な技術である。IHC工程を 20 分まで短縮することで術中に迅速免疫染色(R-IHC法)を可能とし、術中にKi-67免疫染色が標準的な方法と同等に評価可能かを検討した。
対象と方法②:2021年4月から2022年1月までの当科手術症例40例を抽出し、腫瘍凍結切片とそのホルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE)を用いて、標準工程IHC(従来法)とR-IHC法でKi-67陽性率を計測し一致率を検討した。
結論②:腫瘍凍結切片において従来法とR-IHC法ではKi-67陽性率の相関がみられ、さらにFFPE/最終病理とも良い相関が認められた。受信者動作特性曲線から術中R-IHC・7.5%のカットオフ値が算出され、凍結切片での検討でKi-67陽性率7.5%を用いることで、独立してpStage IA3以上を予測し得た(オッズ比:20.477)。R-IHC法は、迅速に腫瘍増殖能Ki-67陽性率を用いてpStage < IA3を予測でき、高い局所再発を術中予測できる可能性が示唆された。
電界撹拌技術は、迅速免疫染色を中心に独創的・革新的な技術開発を行い、病理診断能の向上に貢献してきた。大学での基礎研究がその製品化までこぎつける可能性を持つ本研究は、制約が多い大学研究機関の希望となる。