お知らせ
2024年10月10日(木)
器官病態学講座 後藤明輝教授が著者となる間質性膀胱炎(ハンナ型)に関する論文が科学誌「The Journal of Pathology」に掲載されます。
論文タイトル
APRIL/BAFF Upregulation is Associated with Clonal B-cell Expansion in Hunner-type Interstitial Cystitis
著者名
堀江真史、秋山佳之、加藤洋人、田口慧、中村真樹、水口敬司、伊藤行信、松下貴史、牛久哲男、石川俊平、後藤明輝、久米春喜、本間之夫、前田大地
掲載誌
The Journal of Pathology
研究等概要
器官病態学講座 後藤明輝教授が著者となる間質性膀胱炎(ハンナ型)に関する論文が科学誌「The Journal of Pathology」に掲載されます。金沢大学、信州大学、東京大学、杏林大学、秋田大学、NTT東日本関東病院からなる研究グループは指定難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)に関するB細胞免疫ゲノム解析を行い、B細胞のクローン性拡大が起きていることを世界で初めて明らかにしました。さらに、RNAシーケンスを用いた遺伝子発現分析との統合解析を行い、B細胞のクローン拡大にはAPRILとBAFFという分子が関与している可能性を明らかにしました。これらの分子はB細胞の成熟、生存、増殖、分化に関わっており、既に全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患の治療標的となっています。この研究成果は、間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態解明と治療法、バイオマーカーの確立につながる可能性があり、医学の発展に寄与することが期待されます。
〈研究の背景〉
間質性膀胱炎(ハンナ型)は、慢性的な炎症と膀胱粘膜のびらんにより激しい膀胱・尿道痛、頻尿、尿意切迫感などの排尿症状を引き起こし、患者さんの生活の質(Quality of Life)を大きく損ないます。この疾患は国の指定難病になっておりますが、病態機序はほとんど解明されておらず、標準的な診断基準や根治治療は確立されていません。これまで研究グループは形質細胞の浸潤がこの疾患の特徴であることを突き止めてきましたが、より詳細な発症メカニズムは不明でした。
〈研究の内容〉
今回、研究グループは日本人の間質性膀胱炎(ハンナ型)患者の検体を用いて包括的な免疫ゲノム解析を行いました。まずイメージングマスサイトメトリーと呼ばれる多重免疫染色を行い、形質細胞が上皮下へ浸潤していることを確認しました(図1)。さらに37例のRNAシークエンスから約4割の症例において軽鎖制限(κ鎖 16%、λ鎖 22%)が起きていることを突き止めました。
そこでB細胞抗原受容体のゲノムシークエンスを用いたBCRレパトア解析を行ったところ、B細胞のクローン性拡大が起きていることを突き止めました(図2)。さらにRNAシークエンスによる遺伝子発現プロファイルと統合することで、APRIL(遺伝子名:TNFSF13)とBAFF(遺伝子名:TNFSF13B)という2種類のタンパク質がB細胞のクローンの多様性と強く逆相関しており(図3)、これらの分子がクローン拡大に寄与している可能性を明らかにしました。
次に、膀胱全摘出例を対象に20か所のマルチプルサンプリングを行い、同一症例の過去の生検検体と合わせてBCRレパトア解析による時・空間的なクローンの広がりと拡大を評価しました。すると一部の領域では生検時と同じクローンが拡大している一方で、別の個所では全く異なるクローンが出現・拡大していました。最後にこれらのクローンの広がりとAPRIL・BAFFなどの遺伝子発現、そして病理学的特徴のパラメータを抽出・統合し、クラスタリング解析を行ったところ、3群のパターンに分類され、APRIL・BAFFに制御される間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態の全貌を明らかにしました。
本研究グループはこれまでに、間質性膀胱炎(ハンナ型)の病理組織学的特徴として、1)B細胞異常、2)膀胱上皮粘膜の剥離、を明らかにしてきましたが、それらの分子生物学的な相互関係については未解明でした。本研究では、免疫ゲノム解析を応用することでそれらがBAFF/APRIL系の生物学的経路によって制御されていることを突き止めました。間質性膀胱炎(ハンナ型)の成因となる免疫ゲノム異常が明らかとなったことにより、その病態の理解が大きく進むことが期待されます。また、将来的には、APRILやBAFFといった分子に注目した、新規診断方法や疾患バイオマーカー、新規治療の開発につながることも期待されます。
参考URL
https://pathsocjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/path.6353