研究成果公表
2024年11月12日(火)
形態解析学・器官構造学講座 板東 良雄 教授が著者となる学術論文が国際誌「Int. J. Mol. Sci.」に掲載されました。
論文タイトル
Impact of Neuron-Derived HGF on c-Met and KAI-1 in CNS Glial Cells: Implications for Multiple Sclerosis Pathology.
著者名
Takano, T.; Takano, C.; Funakoshi, H.; Bando, Y.
掲載誌
Int. J. Mol. Sci.
研究等概要
板東良雄教授(形態解析学・器官構造学講座)は高野琢磨医員(現 札幌東徳洲会病院 脳神経外科/旭川医科大学・脳神経外科), 船越洋教授(旭川医科大学・先端医科学講座)らと共同研究を行い、重篤な神経障害を呈する多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)の病態モデルを用いて、神経保護因子Hepatocyte Growth Factor(HGF)とその受容体が多発性硬化症の病態を左右する重要な因子であることを明らかにしました。
MSの原因はまだ明らかではありませんが、免疫細胞や自分自身の組織を攻撃する自己抗体がグリア細胞の一つであるオリゴデンドロサイトやオリゴデンドロサイトが形成する髄鞘を攻撃してしまうことによって起こると考えられており、中枢性炎症性脱髄疾患として難病指定されています。慢性的に炎症が惹起され、再発と寛解を繰り返しながら徐々に神経変性が進んでいくのが典型的です。日本においても患者数が近年増加する傾向にあり、特に20-30代女性に多く発症することが知られていますが、MSの病態は未解明な点も多く、十分な根治療法が存在しません。
一方、今回着目した神経保護因子の一つであるHGFは多種多様な生理活性を有する多機能型サイトカインで、c-MetとKAI-1という受容体が存在します。本研究では、MSの2つのマウス病態モデル(EAEとCPZモデル)において、ニューロンにおいてHGFを高発現させたマウスではEAEの発症やCPZによって惹起される脱髄が抑制されることを明らかにし、これまで炎症に対して受動的と考えられていたニューロンがHGFを介して自分自身を守るだけではなく、自身の周囲に対しても炎症を抑制したり、炎症からオリゴデンドロサイトや髄鞘を保護する役割があることを明らかにしました。また、野生型マウスでは炎症時にアストロサイトやミクログリア、血管内皮細胞においてc-Metの発現が上昇し、HGF-c-Met経路が亢進することによってグリオーシスや血管新生による炎症性脱髄や軸索変性が惹起されるのに対し、HGFを過剰に発現させたマウスではKAI-1の発現が上昇しており、HGF-KAI-1経路によってグリオーシスや血管新生が抑制されるばかりでなく、神経保護や神経再生に働くことを明らかにしました。
本研究成果により、HGF投与によってHGF-KAI-1経路を活性化する(このとき、HGF-c-Met経路は抑制されている)ことによって多発性硬化症の再発防止や神経再生につながる可能性が示唆され、HGFを標的としたMSの治療薬開発が期待されます。また、神経疾患領域においてHGFは既に脊髄損傷や筋委縮性側索硬化症など、他の神経変性疾患においても神経保護効果が認められ、治験も進んでいることから臨床応用への発展も十分期待できます。