研究成果公表
2024年12月24日(火)
器官病態学講座・後藤明輝教授、南谷佳弘学長(研究当時 医学系研究科胸部外科学講座教授)が著者となる研究論文が国際学術誌『Journal of Thoracic Oncology』に掲載されました。
論文タイトル
Polygenic risk score and lung adenocarcinoma risk among never-smokers by EGFR mutation
status-a brief report
著者名
Batel Blechter, Chao Agnes Hsiung, Xiaoyu Wang, Haoyu Zhang, Wei Jie Seow, Jianxin Shi, Nilanjan Chatterjee, Hee Nam Kim, Maria Pik Wong, Yun-Chul Hong, Jason YY. Wong, Juncheng Dai, H Dean Hosgood, Zhaoming Wang, I-Shou Chang, Jiyeon Choi, Jiucun Wang, Minsun Song, Wei Hu, Wei Zheng, Jin Hee Kim, Baosen Zhou, Demetrius Albanes, Min-Ho Shin, Lap Ping Chung, She-Juan An, Hong Zheng, Yasushi Yatabe, Xu-Chao Zhang, Young Tae Kim, Xiao-Ou Shu, Young-Chul Kim, Roel C.H. Vermeulen, Bryan A. Bassig, Jiang Chang, James Chung Man Ho, Bu-Tian Ji, Michiaki Kubo, Yataro Daigo, Yukihide Momozawa, Yoichiro Kamatani, Takayuki Honda, Hideo Kunitoh, Shun-ichi Watanabe, Yohei Miyagi, Haruhiko Nakayama, Shingo Matsumoto, Masahiro Tsuboi, Koichi Goto, Zhihua Yin, Atsushi Takahashi, Akiteru Goto, Yoshihiro Minamiya, Kimihiro Shimizu, Kazumi Tanaka, Tangchun Wu, Fusheng Wei, Jian Su, Yeul Hong Kim, In-Jae Oh, Victor Ho Fun Lee, Wu-Chou Su, Yuh-Min Chen, Gee-Chen Chang, Kuan-Yu Chen, Ming-Shyan Huang, Hsien-Chih Lin, Adeline Seow, Jae Yong Park, Sun-Seog Kweon, Chien-Jen Chen, Yu-Tang Gao, Chen Wu, Biyun Qian, Daru Lu, Jianjun Liu, Hyo-Sung Jeon, Chin-Fu Hsiao, Jae Sook Sung, Ying-Huang Tsai, Yoo Jin Jung, Huan Guo, Zhibin Hu, Tzu-Yu Chen, Laurie Burdett, Meredith Yeager, Amy Hutchinson, Sonja I. Berndt, Wei Wu, Junwen Wang, Jin Eun Choi, Kyong Hwa Park, Sook Whan Sung, Li Liu, Chang Hyun Kang, Chung-Hsing Chen, Jun Xu, Peng Guan, Wen Tan, Chih-Liang Wang, Alan Dart Loon Sihoe, Ying Chen, Yi Young Choi, Jun Suk Kim, Ho-Il Yoon, Qiuyin Cai, In Kyu Park, Ping Xu, Qincheng He, Chih-Yi Chen, Junjie Wu, Wei-Yen Lim, Kun-Chieh Chen, John K.C. Chan, Jihua Li, Hongyan Chen, Chong-Jen Yu, Li Jin, Joseph F. Fraumeni, Jr., Jie Liu, Maria Teresa Landi, Taiki Yamaji, Yang Yang, Belynda Hicks, Kathleen Wyatt, Shengchao A. Li, Hongxia Ma, Bao Song, Zhehai Wang, Sensen Cheng, Xuelian Li, Yangwu Ren, Motoki Iwasaki, Junjie Zhu, Gening Jiang, Ke Fei, Guoping Wu, Li-Hsin Chien, Fang-Yu Tsai, Jinming Yu, Victoria L. Stevens, Pan-Chyr Yang*, Dongxin Lin*, Kexin Chen*, Yi-Long Wu*, Keitaro Matsuo*, Nathaniel Rothman*, Kouya Shiraishi*, Hongbing Shen*, Stephen J. Chanock*, Takashi Kohno*, Qing Lan* (*co-corresponding authors)
掲載誌
Journal of Thoracic Oncology
研究等概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)研究所ゲノム生物学研究分野 白石航也ユニット長、河野隆志分野長、愛知県がんセンター(総長:丹羽康正、愛知県名古屋市)がん予防研究分野 松尾恵太郎分野長を中心とし、秋田大学医学系研究科器官病態学講座・後藤明輝教授、同胸部外科学講座・南谷佳弘教授(現・学長)らを含む全国11施設からなる共同研究グループは、国際共同研究により、EGFRという遺伝子の変異を原因として発生する肺腺がんの発生の危険要因を調べました。その結果、遺伝子多型と呼ばれる遺伝子の個人差の積み重ねにより、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさは、8.6倍高まることが分かりました。これらの結果は、タバコを吸わない方の肺がんの予防、早期発見に役立つと期待されます。国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)研究所ゲノム生物学研究分野 白石航也ユニット長、河野隆志分野長、愛知県がんセンター(総長:丹羽康正、愛知県名古屋市)がん予防研究分野 松尾恵太郎分野長など、全国11施設からなる共同研究グループは、国際共同研究により、EGFRという遺伝子の変異を原因として発生する肺腺がんの発生の危険要因を調べました。その結果、遺伝子多型と呼ばれる遺伝子の個人差の積み重ねにより、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさは、8.6倍高まることが分かりました。これらの結果は、タバコを吸わない方の肺がんの予防、早期発見に役立つと期待されます。
本研究成果は、2024年11月22日(米国東部時間)付で、国際学術誌「Journal of Thoracic Oncology」に掲載されました。
背景
肺がんは最も多くのがん死をもたらしており、日本では年間に約7万6千人の死亡の原因となります。肺腺がんは最も多いタイプの肺がんで、半数弱は非喫煙者に発生することから、禁煙以外の予防法や早期発見の方法が強く求められています。特に、日本を含めたアジアの国では、EGFRという遺伝子の変異(注1)を原因として発生する肺腺がんが非喫煙者に多いことが知られており、なぜこのようながんがアジア人に多いのか、メカニズムの解明が期待されています(図1)。
これまでの研究で、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさには、HLAクラスII遺伝子やテロメア制御遺伝子などの個人差(遺伝子多型:注2)が危険因子であることを明らかにしてきました(参考論文†1, †2, †3)。今回の研究では、遺伝子多型の積み重ねによる危険度を数値化し、どの程度、肺がんのリスクに影響しているかを調査しました。
研究方法
日本、台湾、中国、香港、シンガポール、韓国からなる東アジアの非喫煙者女性に発生した肺腺がんを研究の対象としました。患者さん998人と肺がんに罹患していない非喫煙者女性4,544人について、全ゲノムにわたる遺伝子多型を明らかにし、遺伝子多型の積み重ねによる危険度をあらわすポリジェニックリスクスコア(注3)を算出しました。その際、EGFR変異を持つ肺腺がんとEGFR変異を持たない肺腺がんの間で差があるかを比較しました。なお、本研究は、アジア人女性の肺がんの原因解明を目指す国際共同研究FLCCA(Female Lung Cancer Consortium in Asia)の一部として行われました。
研究結果
遺伝子多型の積み重なりからなる危険度に基づいて集団を4等分し、最も危険度の低い25%グループ(Q1)の危険度を1としたときに、他の3グループ(それぞれ25%)の危険度が何倍上昇するかを算出しました。
その結果、遺伝子の個人差の積み重ねにより、EGFR変異を持つ肺腺がんへの罹りやすさは、8.6倍高まることが分かりました。一方でEGFR変異を持たない肺腺がんへの罹りやすさは、3.5倍にとどまりました。つまり、EGFR変異を持つ肺腺がんの方が、EGFR変異を持たない肺腺がんと比べて、より強く遺伝子多型の影響を受けて発症することが明らかになりました(図2)。
用語解説
(注1)EGFR遺伝子
EGFR遺伝子は、必要に応じて上皮細胞の増殖を促す上皮成長因子受容体タンパク質をコードする遺伝子である。EGFR遺伝子に変異が生じると、常に増殖を促すような異常な上皮成長因子受容体タンパク質が作られるようになる。その結果、肺の上皮細胞の増殖の制御が効かなくなり、細胞ががん化することが知られている。EGFR変異が陽性の肺がんは、オシメルチニブなど、上皮成長因子受容体タンパク質の機能を阻害する抗がん剤に弱いため、治療に用いられている。
(注2) 遺伝子多型
ヒトゲノムは約30億塩基対のDNAからなるが、血液型などその塩基配列には個人差がある。この違いのうち、集団内で1%以上の頻度で認められるものを多型と呼ぶ。多型による塩基配列の違いがタンパク質の量または質の変化を引き起こし、体格、病気の罹りやすさ、医薬品への反応などの個人差をもたらす。これまでの研究で、免疫をつかさどるHLAクラスII遺伝子やテロメアの制御を行うTERT遺伝子などの個人差がEGFR変異を持つ肺がんへの罹患における危険因子であることが明らかになっている。
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/1108/index.html
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2016/0809/index.html
(注3) ポリジェニックリスクスコア
各個人のもつ遺伝的なリスクの積み重なりをスコア化して、病気の発症を予測する手法。今回の研究では、肺腺がんへの危険因子となる遺伝子多型の積み重なり方によって、集団を4等分し、最も危険度の低い群の危険度を1としたときに、他の3群の危険度が何倍上昇するかを計算した。スコアを算出する際の各遺伝子多型の重み付けは、先行研究の結果から導出した)。
本研究成果は、2024年11月22日(米国東部時間)付で、国際学術誌「Journal of Thoracic Oncology」に掲載されました。
参考URL
https://www.akita-u.ac.jp/honbu/event/item_mix_4659.html