ニュース
2026年08月25日(火)
放射線医学講座の森 菜緒子 教授および産婦人科学講座の寺田 幸弘 教授、小野 有紀 医員が著者となる学術論文が「Anthropological Science(人類学:日本人類学会機関紙)」に掲載されました
論文タイトル
Development of preauricular grooves after childbirth in present-day females(現代女性における出産後の耳前溝の発達)
著者名
Kenshin Nakamura, Osamu Kondo, Naoko Mori, Yuki Ono, Noboru Adachi, Reiko T. Kono, Yukihiro Terada
所属:中村謙信・近藤修(東京大学理学部生物化学専攻)、森菜緒子(秋田大医学部放射線科)、安達登(山梨大学医学部法医学)、河野礼子(慶應義塾大学文学部)、小野有紀・寺田幸弘(秋田大医学部産婦人科)
掲載誌
Anthropological Science(人類学:日本人類学会機関紙)
研究等概要
骨盤を構成する寛骨の仙腸関節近傍には、「耳状面前溝(preauricular groove:PAG)」と呼ばれる、肉眼でも観察可能な圧痕状の骨変形がしばしば観察されます。PAGは男性よりも女性で明瞭に認められることが多いため、法医学分野では白骨遺体の性別判定に有用な形態的特徴として利用されています。また、自然人類学分野では、妊娠・出産に伴って形成・発達する骨変化であると伝統的に考えられてきました。しかし、その形成機序には不明な点が多く、妊娠・出産との直接的な因果関係を疑問視する研究も存在します。
本研究では、秋田大学医学部附属病院で臨床CT撮影を受けた成人女性を対象に、PAGの形成・発達と出産との関係を検討しました。分析には、分娩を挟んで2回のCT撮影を受けた3例の縦断データと、経産女性51名・未経産女性47名からなる横断データを用いました。CT断面画像からPAG領域を抽出してその容積を算出することにより、従来は主として定性的に評価されてきたPAGを、定量的に分析することを試みました。
縦断データを分析した結果、3例のうち1例では、鉗子分娩後にPAGが顕著に増大していました。一方、帝王切開を経験した1例では明らかな増大は認められず、2回の経膣分娩を経験した別の1例でも、その変化はわずかでした。本研究は、同一人物における分娩前後のPAGの変化を、CT画像を用いて定量的に追跡した初めての報告であり、分娩後にPAGが明瞭に発達する場合がある一方で、ほとんど発達しない場合もあることを示しました。さらに、横断データを含む全体の分析では、経産女性は未経産女性よりもPAGが有意に大きいことが明らかとなりました。その一方で、PAGの大きさと出産回数・妊娠回数との正の相関はいずれも弱く、有意ではありませんでした。これらの結果は、PAGが出産経験と一定の関連をもつ可能性を支持すると同時に、PAGのみから個人の出産歴を推定することには限界があることを示しています。
自然人類学・考古学分野では、遺跡から出土した女性人骨について、発達したPAGを根拠の一つとして経産女性であったと推定することがあります。また集団レベルでPAGが発達している集団を高出生率とみなす人口学的な研究も行われてきました。本研究は、こうした古人骨研究におけるPAGの解釈に、現代人の臨床CTデータに基づく新たな根拠を与える成果であると言えます。
研究の特色
本学放射線科(森教授)および産婦人科(寺田教授、小野医員)、人類進化学者(中村助教、近藤准教授、河野教授)および法医学者(安達教授)という多彩な領域の研究者のコラボレーションによる人類進化学の発展に益する科学情報です。
参考URL
https://doi.org/10.1537/ase.260418


